updated   2022-09-21

❤️ I love Sackbut ❤️ 

サクバット奏者 宮下宣子

vol.3    モレッリヤ古楽祭体験記②

 前回は、古楽祭全般について書きましたが、いよいよ今回はサクバットとスライドトランペットのレッスン、アンサンブルについて書きます。
 
 サクバット講師のエリアス・エルナンデス・オルトラ氏はマドリード音楽院でモダントロンボーンを教えていて、またサクバットでは、いろいろな古楽グループで活躍していて、古楽界では世界的にも重要な位置にいます。
 
 奏法は、基本的にはモダンもサクバットも違いがない、というスタンスでした。特にサクバットで大切にしている点は以下の3点でした。
 
①唇そのものの振動を大切にすること。
②レガート奏法は非常に大事で、絶対に固くならず、しっかりと息を入れ続けること。
③スライディグは7pos.まで、満遍なくしっかり練習する。
 
 項目ごとに詳しく補足説明して行きます。
 
①はべンディングをたくさん取り入れるウォームアップから始めます。これはサクバットのフランス人第一人者ダニエル・ラサールのエチュードを踏襲しています。サクバットは、モダン楽器とは違い、楽器自体があまり助けてくれないので、自分の唇の振動がしっかりしていることが、とても大切なことなのです。奏法的に無理があると、モダンに戻った時に調子を崩す原因になるのだと思います。金管楽器奏法の原理としては、唇の振動をいかにそのまま拡声するか、なのです。
 
 レッスンのスタイルとして私の知る限り、フランス、スペインなどで一般的なのは、まずは午前中は全学生が一緒にウォーミングアップ、基礎練習をする合同レッスンで、午後は個人レッスンやアンサンブルになります。基礎を合同で行うメリットは、真似しながら一緒に吹いて行くことで影響を受けるのか、初めは吹けない人でも、自然にだんだん力がついて行くように思います。エリアス先生もそのスタイルのレッスンで、で、皆んなで一緒に毎日、ウォームアップをタップリやりました。
 
 また、エリアス先生は、いろいろなエチュードを、自分なりにアレンジしてアプリにまとめていて、とても効率的でした。それから、主なアンサンブル曲のレパートリーなども、楽譜類は全てファイルにまとめられており、皆タブレットによって読み込んで演奏して
いて、本当に便利だと思いました。
 

①ペンディングの譜例。全ての調性でやること。
 

②息をしっかり入れることは、いつもとても強調していました。レガートの時はアタックが強いのは勿論ダメで、発音は柔らかく!
 
 またレガートに関しては、柔らかさをすごく要求するけれど、私が古楽に必携だと思うメッサ・デ・ヴォーチェ(ゼロ発進した後で、少し膨らませる奏法)は良くないと言い切っていらっしゃいました。基本はモダンと全く同じ奏法、ということのようでした。
 

②レガート練習の譜例

 
③スライディングについては、サクバットにはF管がないので、7ポジションまで満遍なく、自分の手の内にする必要性を強調され、全ての練習を全ての調で出来るように練習しました。
 
 それから、替えポジションもなるべくたくさん選択して慣れらようにし、綺麗につなげられることが、大切なようでした。
 

③スライディング練習の譜例

 
 基礎練習として、特にサクバットのためのものとして1614年に出版されたブルネッリの、いろいろな楽器のためのエチュードを使いました。17世紀に使われた細かいパッセージの譜例集のようなものです。これを元にして、ハーモニーやカノンの練習に発展させて行きました。
 

ブルネッリ譜例集

 
 後は、いろいろなアンサンブル曲をやりました。主な作曲家としてはスザート、パラボスコ、モラリス、コテス、ホルボーン、パーセル、フレスコバルディ、シュペール、シュッツなどで、知らなかった曲もたくさんあり、とても勉強になりました。
 
 あとは、カノンもよく演奏し、「モンセラートの朱い本」の区切りのところでカノンに。
 

モンセラートの朱い本

 
 これはとても有名なパッセージのようでしたが、これも暗譜でカッコよくやりました。
 

この曲もカノンで

 
 スライドトランペットについては、シルケ先生にアルタカペッラのレッスンを受けました。レパートリーはランディーニ、デュファイなど14世紀の作品が中心です。音律はピタゴラス音律です。特に勉強したのは以下の2曲です。
「Adiu,adiu,dous dame」
「Questa fanciull'amor」
       Francesco Landini
        (ca.1325~1397)
 どちらの曲もカントゥス(ショーム)と、テナー(ボンバー)、コントラテナー(スライドトランペット)の3声で、熱い愛、または切ない愛の歌です。   
 これをストレートで強い音色のショーム、ボンバー、スライドトランペットで朗々と吹くと、独特な雰囲気になります。
 
 音楽的な注意点としては
①この時代で一番大切なのはテナー(定旋律)で、テナーが主音に戻る時がカデンツァ(A→G)。カデンツァの時に、演奏者の趣味によっては、カントゥス、コントラテノールのパートは、♯をつけたりします。(G→F→E→GがG→F♯→E→G)または(D→C→H→DがD→C♯→H→D)
 
②そして演奏する時の形式は、歌詞がABBAAの形式で書かれているので、必ずこの形式で繰り返すこと。
 
③繰り返すときは、この時代に合った装飾を付けることが大事、ということでした。装飾のパーセージは時代によって違うので、それをしっかり習得する必要があります。
 
 この形態での演奏は、日本ではまだされていないと思うので、是非いずれコンサートをやってみたいと思っています。

⑦アルタカペッラ。
なぜか音が入っていなくて、写真のみになり残念です・・・
真ん中がシルケ先生、右がヴァレーさん

 
この古楽祭での演奏をいくつか添付します。
 

この古楽祭開催中
バレンシア州知事の御尊父(モレッリヤ出身)が逝去され
急遽パーセル作曲の「メアリー女王の葬送音楽」を献奏いたしました。
サンタ・マリア教会にて

 
 
 

ルードヴィッヒ・ゼンフル作曲「楽しく一緒に踊ろう」
Ludwig Senfl (ca. 1490-1543): Mit Lust tritt ich in diesen Tanz

 
 
 

ジョヴァンニ・クローチェ作曲「彼はサウルを打った」
Giovanni Croce (1557-1609): Percussit Saul

 
 
 

キュール・デソール作曲「道端の石」
Cueurs desolez(1460/1470-1518):Pierre de la Rue

 

 
 
シルケ・グヴェンドリン・シュルツェ先生
&
エリアス・エルナンデス・オルトラ先生

 
 
 

サクバットの皆さんと

 
 このモレッリヤ古楽祭には、コロナの影響があり、やっと参加することができました。待ちに待っただけあり、いろいろな面で大きな収穫でした。
 
 今までフランス、ノルマンディー地方のリジュー、イタリア、マルケ州のウルビーノの古楽祭に参加した経験はありましたが、国によってそのキャラクターは大きく違い、今回も本当に良い勉強になり、楽しむことかできました。日本にいると、なかなか古楽を学ぶことは難しいので、このような古楽祭に参加することは、とても効率的に勉強出来る素晴らしいチャンスだと思います。
 
 次回コラムは、以前に参加した古楽祭について触れてみようと思います。
 

2022年8月6日